夕食の皿が、いつの間にか二枚だけになった。
テレビの笑い声のすき間に、夫が湯のみを置く音がこつんと響く。50代からの夫婦生活は、こんなに静かなものだったっけ。
更年期のほてりに、親の通院の付き添い。そこへ退職まで、ちらつきはじめる。夫の側も、同じ静けさの中にいるはずです。
最初に、ひとつだけ。夜の営みがあってもなくても、それは二人の形。レスの家が肩身のせまい思いをしなくていいし、もう一度を望むのも恥じゃない。よその円満な夫婦に沈む心も、そのままで大丈夫です。
手がかりは、51歳から59歳までの10人の話。家の空気を分けていたのは回数より、隣り合う時間の残り方でした。
道しるべを、先に3つ置いておきます。
・レスの家も続く家も、胸を張っていい3つのわけ
・50代の夫婦生活を揺らす、体と暮らしの変化
・夫婦の時間を、明日から取り戻すヒント
50代からの夫婦生活は、してもしなくても二人の形でいい
50代からの夫婦生活は、夜の有無で優劣がつくものではありません。夜が続く家も、とうに手放した家も、どちらも夫婦のひとつの姿です。
55歳のみどりさんによれば、中高年でも夜が現役の家はいくらでもある。耳に入る話が、レスや浮気に偏りがちなだけ。みどりさん夫婦自身、50代の今も続いている側です。
一方で、一定の年齢から必要なくなる家もある。両方ある、と受け止めるみどりさんの言葉は、しない夫婦を見下さない。
もう要らないと感じる自分を、冷たい人だと決めつける理由もない。今日は休みたい、と言えた翌朝も、いつものおはようが返ってくる。断っても、暮らしの中で仕返しをされない。その安心があってこそ、する夜もしない夜も二人で選べるんです。
よその夫婦がまぶしい夜も、あって当然。帰り道に見上げたマンションの窓は、どれも温かそうに光っている。でも、中で誰が黙りこんでいるかまでは、外から見えないでしょ?
50代の夫婦に長く効いてくるのは、夜の回数より、隣にいる時間のほう。親の入院先で並ぶ時間も、退職後に同じニュースを眺める昼も。どれも立派な二人用の時間です。
50代の夫婦生活が揺れる原因は?体と暮らしに起きる4つの変化
50代の夜がぐらつく陰では、体と家族の事情、会話の細りがもつれ合っています。探すのは犯人ではなく、自分を責めるのを少し休むための手がかり。
更年期や持病、親の介護が、二人の話を後ろへずらす
ほてりで夜中に目が覚め、朝は親の病院からの電話で起こされる(泣)
そんな朝が、続いていない?
59歳ののぶこさんは、50を過ぎて体のあちこちにガタが来たと実感しています。更年期に親の介護、自分の病気まで重なる毎日。恋愛も夜のことも、当たり前には続かない。
(いっそ全部あきらめて、悟ったつもりで老いを楽しめたらいいのに)
52歳のようこさんも、夫婦のすきま風を感じていた一人。そこへ先に来たのが、親の退院と車椅子での暮らしでした。
結局、目の前の用事に押されて、夫婦の話はじりじり後ろへ。後回しにした話は消えず、老後の不仲に姿を変えて帰ってくることもある。保留音が鳴りっぱなしの受話器を、置けずにいる日々です。
大きな病気のあと、夫婦の形が分かれていく
連れ合いの手術の日、待合室で手のひらに汗をかいた覚えは?
58歳のひろしさんには、うらやましい先輩夫婦がいました。50代でも旅行に出かけ、夜の関係も途切れない二人。
ところが後日、まさかの話が耳に入ります。先輩の大病のあと、夫が変わり果てて店に通いはじめたというのです。
(死ぬまで仲がいいなんて、奇跡なんだな)
病気をした側は、自分が色あせたせいだと思いこみがち。でも削られたのは魅力ではなく、疲れとストレスで減った体の余力です。
薬の力で戻る家もあれば、戻すのをやめて手をつなぐ家もある。片方だけが外に答えを探せば、病と向き合う人は家でひとりきり。分かれ目は、病気のあとにどれだけ会話が残ったかでした。
子どもが巣立ち、静けさの中身が見えてくる
週末の昼、二人でテーブルにつくと、時計の秒針がやけに大きく聞こえませんか?
子どもの独立を、二人の再開と受け取れる家がある。反対に、空いた部屋の広さだけが残る家も。違いを生むのは、子育ての20年ほどに二人の話を残せたかどうか。広い部屋は、話す題のなさを拡声器みたいに響かせもする。
59歳のただしさんいわく、若いころの愛は確かめ合いが中心。50代からは、音もなく深まっていく。そう整理がついたのは、ふり返ってみてから。
(派手な言葉はいらない。そばにいるだけで、ほっとする)
ただ、同じ沈黙でも中身は二通り。縁側の日なたぼっこのような沈黙と、砂嵐のテレビを誰も消さない沈黙。外からは、意外と見分けがつきません。
わかるのは、中で暮らす二人だけ。相手のくしゃみに、大丈夫?と声が返るかどうか。そんな小さな反応が残る家なら、夜の数に関係なく夫婦の形を保ちやすい。
黙る家が多いぶん、よその仲良し夫婦に目を奪われる
腕を組んで歩く同級生夫婦を見送った夜、胸の奥がじわっと重くならなかった?
53歳のたかしさんの周りでは、20年たっても続く夫婦のほうが変わり者あつかい。続いている家ほど、黙っているだけなのかも。
51歳のかおりさんには、同年代より50代以上の睦まじい夫婦がこたえる。結婚30年でも二人で出かける姿に、ちくりと刺される。
(あの二人、きっと今も続いてるんだろうな。うちじゃ、あそこまで行けない)
よその笑顔を見た夜ほど、わが家の箸の音がやけに響く。皿を下げながら、老後の年数を頭の中で足し算してしまうかおりさん。
こうなるともう、夜より残りの年数の話なんだよね。
【体験談】戻った夜、続いてきた毎日、静かな家。4人の50代
夜が戻った家、腹を立てながら続いてきた家、静けさの中で迷う家。
子どもが出かけた夜、晩酌から二人に戻ったしんじさん
56歳のしんじさんは、上の子の誕生以来、夫婦だけの夜なんて想像もしなかった人。
(40代50代なんて、会話も欲も減って、淡々と過ぎていくもんだと思ってた)
転機は、子どもが夜遊びに出かけた晩。久しぶりに妻と二人で夕飯を囲み、酒をくみかわしました。その夜は、リビングで二人きりに。
妻は夜中のうちに、自分の寝室へ戻っていました。しんじさんはそのまま、朝まで一度も目を覚まさずに熟睡。起きた瞬間の、あの開放感ときたら!
子どもの留守の夜には、新婚のころの初々しさがよみがえる。今は、次のデートや小旅行の相談を肴に、晩酌が長く続くのだとか。
休日前の夜に、若いころのペースが戻ったまさるさん
57歳のまさるさんは、子どもが社会人になってから、週のリズムが一部戻った人。
平日は帰りが遅く、次の日も仕事。けれど休みの前の晩なら、妻の表情もまんざらではない。20代の勢いこそないものの、今の妻は恥ずかしがらずに向き合ってくれます。
(毎回、満足してくれてる…と思う。多分)
夜の時間は、日ごろのおしゃべりや触れ合いの続きに、ときどき訪れるくらい。夫婦げんかやストレスが少ないのはそのおかげ、というのがまさるさんの見立て。
こんな相手と巡り合えたのは、宝くじに当たるより珍しいこと。あとになって、そう振り返るそうです。こういう話の陰には、合わなかった友人の家もいくつもある。
腹が立つのに離れない先輩に、でっかい愛を見たけいこさん
54歳のけいこさんの先輩は、今年で銀婚式。まるで人生を初めて生きているような夫に、毎日いらいらさせられるのだそう。
それでも、半年に一回くらいは面白いことを言う。だから我慢してやっている、というのが先輩の言い分(笑)
話を受けて、けいこさんはこう思いました。
(それって、でっかい愛なんじゃない?)
燃え上がり直すドラマとは違う。けれど、関係を終わらせない選択だけは、毎日静かに続いている。年2回のボーナスを待つように、次の冗談を待てる夫婦。朝になれば、同じ台所でお湯が沸く家です。
にぎやかだった頃の家を恋しがる、ようこさん
ようこさんの口ぐせは、会話がない、ひとりぼっち、このまま老後を迎えるのが不安。スマホもお金も夫任せの友人を、一人で生きたくなったら困るのに、と案じる。
夜になると、あの生活が恋しくなる。心が向かう先は、隣の夫ではなく、子どもたちの声が絶えなかった頃の家。
(あの、うるさい家に戻りたい…)
あの騒がしさが、夫婦の無言を覆い隠していたんですね。静かになった家で、ようこさんの手探りはまだ終わっていません。
この先どう過ごす?二人の時間を残していく工夫
大事なのは、夜の数を取り戻すより、二人で使う時間を家に残すこと。
まずは、要らない自分も、戻したい自分も認める
(この年でもう一度なんて言ったら、笑われる?)
笑われるような話じゃない。もういいかなと思う日と、もう一度と願う日が、同じ週に来ることだってあります。どちらも、今のあなたの本音。
ほかの夫婦と比べて落ちこむ夜も、無理に消さなくていい。その沈みこみは、まだ二人を諦めていない印だから。
夜より先に、昼の会話を育てる工夫
話題に迷うときは、夜の話より先に、次の旅行の行き先を口にしてみる。旅の相談から入った家ほど、あとで体の距離も縮まることが多かった。
会話が天気の話で終わる日は、流しに皿を運んだついでに、ひと言だけ置いていく。今日の煮物、味がしみてたね。それくらいで十分!食卓に残す、小さな置き手紙です。
介護や通院で予定が立たないときは、病院の廊下で肩を並べて待つ時間を数えてみる。車椅子の母を見送ったあと、二人で立つ台所も数に入れていい。
体から待ったがかかったら、回数を下げる相談をしてみる。50代は体が先に限界を教えてくれる、とみどりさん。同じ回数にこだわれば、夜は義務に変わってしまう。昔の大盛りを、小さくなった胃袋に押しこむみたいなものでしょ?
体が乗らない夜は、手だけつないで、今日はここまでにしようと二人で決めてみる。片方が断るのではなく、同じページに二人で栞をはさむ感覚です。
寂しさがふくらんだときは、行き先を決める前に中身を分けてみる。話したいのか、支えがほしいのか、別の相手なのか。目的を混ぜれば家が壊れる。その景色を、のぶこさんは先に思い描けます。話し相手なら、夫婦の会話や友人、カウンセラーでも埋まります。
比べやすさ、いら立ちやすさを長所に裏返す
比べる癖も腹立ちも、裏から見れば道具に化けます。
| 短所に見えるところ | 裏返すと | 活かせる場面 |
|---|---|---|
| 円満な同世代夫婦を見ると落ちこむ | 二人の関係を投げ出していない | 行きたい場所を自分から口にできる |
| 相手の小さな言動に、いちいち腹が立つ | 相手のことをよく見ている | たまの冗談にも気づいて笑える |
| 体調を理由に断るのが後ろめたい | 相手の気持ちを大切にできる | 代わりの触れ方を添えて断れる |
| 先の暮らしの年数をつい数えてしまう | 将来を真剣に考えている | 退職後の過ごし方を話す口火を切れる |
50代からの夫婦生活のよくある質問
Q.50代で夫婦生活がないのは、おかしいですか?
おかしくありません。年を重ねて要らなくなる夫婦もいれば、50代で続く夫婦もいます。比べるなら、よその回数より、わが家の会話の量。そこが細らなければ、レスでも二人の暮らしは回っていきます。
Q.子どもが独立すれば、二人の関係は戻りますか?
戻る家もあるし、静けさだけが増す家もあります。子どもの外出をきっかけに、新婚時代を思い出した人もいる。静かな家も、旅の相談ひとつから会話を足していけます。
Q.更年期や病気で応じられないとき、どう伝えればいい?
体の事情を、そのまま言葉にして大丈夫ですよ。今夜は体がきついから手をつなぐだけにしたい。そんなふうに代わりの形を添えると、相手も飲みこみやすいはず。断ったせいで冷たくされるなら、一人で我慢せず専門の相談先へ。
まとめ
50代からの夫婦生活を、夜の数で測らなくていい。
半年に一回の冗談を、まだ隣で待てる。その食卓は、夜がなくてもちゃんと夫婦のものです。

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