結婚記念日に、ケーキを二切れ買って帰る。おめでとう、と笑い合ったら、それぞれの布団へ。
夫婦の夜が消えた状態、つまりセックスレス。ここからは縮めて、レスと呼びますね。レスのままでも、離婚したくない。
別れたくないのって、ただ臆病なだけ?
求めても届かない側かもしれないし、断ってきたのはあなたのほうかも。どちらの布団から読んでいても、ここでは誰も責めません。
レスのまま別れない道を選ぶことは、地獄行きでも敗北でもない。大事なのは、その選択を今の二人の約束に変えて、言葉にできるかどうか。
別れずにいる人、迷い続ける人、別れを選んだ人。8人の話を見渡すと、離れない理由は家の数だけありました。
約束の下書きに使える材料は、3つ。
・夫婦がレスでも離婚したくない自分を、責めなくていい理由
・別れない決心が、知らないうちに重荷へ変わる原因
・禁止だけの同居にしないための、約束の中身
夫婦がレスでも離婚したくないのは、負けでも逃げでもない
一緒にいたいと願う選択は、恥じるものとは違います。理由が愛でも暮らしでも、壊すのが怖いからでも、どれも本物。そう言いきれるわけは、3つ。
最初は、ここに残る理由に、上等も下等もないこと。この人を、まだ愛している。今の生活が、ちゃんと回っているから。家族がばらばらになる場面が浮かぶだけで、みぞおちがひやり。子どもや住まいや家計を握りしめていても、誰かに裁かれる材料にはならない。
お金や世間体をはかりにかけるなんて、下品?正直言って、計算くらい誰でもしますよね。むしろ数字を見ないふりで通してきた家のほうが、前ぶれもなく届が出ることも。
次は、解消しなければ失敗、という物差しを外していいこと。そのルールに従えば、別れない道は一つ残らず黒星になってしまう。優勝以外は全員が敗者の大会なんて、出る前から肩が落ちそう。夜が戻らないまま、負けとは違う形で並んで暮らす道も、ここにあります!
最後は、求める人も拒む人も、そのことだけで悪者と決まるわけではないこと。求めた相手に、長い年月、手が届かない暮らしを、地獄と呼びたくなる。その実感は、求める人だけのもの。誰にも取り上げられません。
一方で、したくない体は、多数決では動かせない。籍を入れていても、うなずいていない夜を強いていい理由はないから。
どちらの痛みも本物。では、別れない気持ちはどこで苦しさに化けるのでしょう。
レスでも別れないと決めたのに、なぜ苦しい?4つの原因
苦しさの多くは、別れない選択そのものより、まわりに生える言葉や習慣から来ます。名付け、軽い一言、禁止の重なり、慣れ。悪者探しではなく、詰まりの場所を探す整理です。
仲は良い、の名付けが重しになる
友だちに、うちは仲いいから、と先回りして笑ったこと、ありませんか?
(うちは平和。…たぶん、平和)
仲は良いレス夫婦。そう名付けるのは、心を守る知恵のひとつ。名前がつけば、それ以上は掘り返さずに済むから。ただ、漬物石を載せた樽の蓋は、中で何が起きていても外からは平らに見えるんですよね。
テレビで色っぽい場面が流れたら、すっとチャンネルを変える。そんな人の理由は、相手がその気になると困るから。それでいて、うちは仲がいい、と言う。夜が起きないことを仲の良さと呼ぶなら、たしかにレスは大成功。
仲は悪くない、という言葉で測れるのは、けんかの少なさまで。大切にされている感触までは、測れない。体重計にいくら乗っても、背丈は一ミリも出てこない(笑)
それぐらい、の一言が片側にだけ積もっていく
打ち明けた夜に、そんなことで?と返された覚えは?言った側に、心当たりのある人も。
求める側の胸にいちばん深く刺さるのが、「それぐらいで別れるの?」という一言。言う側は、軽い確認のつもりでしょう。でも、何年も浴び続けた側は、打ち明けるたびに声が細っていく(泣)
言い続けた側から見ると、相手の限界は、ふいに届いた一枚の紙に見えます。まさか、と手が止まる。けれど、本当は前ぶれだらけ。軒先のつららは、落ちる瞬間だけ見れば一瞬。実際は、ひと冬かけて少しずつ伸びていたんです。
届を出した翌日に、待って、変わるから、と泣き崩れられる家もあります。その涙は、たいてい間に合わない形で届く。
しない、外もだめ、別れない。三つがそろうと出口が消える
話し合いも歩み寄りも、全力ではねつけられた人がいる。相手の答えは、したくない。離婚もしたくない。外で満たすのもだめ。
(じゃあ、残ってる道はどこ…)
21歳の人も、同じ形の言葉を口にします。しない、浮気もだめ、お店もだめ、離婚もしない。それって男性には生き地獄じゃない?と。
三つの禁止が同時に立つと、求める側は出口のない暗闇に追いこまれる。かといって、応じられない体を数の力で動かすこともできません。
話がこじれ、夜のなさが離婚の争点として持ち出されることも。そうなると、断る側の体はますます固くなりがち。外へ出ることも、ここではすすめません。抜け落ちているのは四つ目の選択肢、つまり残すものの話。
慣れが暮らしの技術になり、届はすぐには出ない
夜を重ねていた頃の二人の顔が、ぼやけてきた。そんな感覚が、胸のどこかにない?
慣れは、日々をやり過ごすための技術でもあります。線路沿いの部屋に何年も住むと、終電の音で目が覚めなくなる。音そのものは、毎晩ちゃんと鳴っているのに。
技術になった空白は、崩す場面をちらっと思い描くだけで、足がすくむ。この怖さが、離婚したくないの本音になっている家も多いんです。
落とし穴がひとつ。その怖さを愛と言い換えると、言い換えてもらった側は、何も変えずに済んでしまう。向き合おうとする声だけが、何年も床に落ちていく。
【体験談】対岸へ渡った1人と、手前の岸に残る3人
4人のうち、向こう岸へ移ったのは1人。残る3人は、それぞれの理由で届を出さずにいる側です。
15年のあと、先に元の破綻を終わらせた柚さん
42歳の柚さんの家は、同棲していた頃から夜が空白でした。気づいていながら、目をつぶって結婚。そこから15年、拒まれ続けます。
(このまま人生が終わるのは、嫌だ)
その思いから、柚さんは外に出ました。外に出たあと、元の結婚の破綻を先に終わらせようと、別れに踏み切ります。
外に出たことも別れたことも、是非はここでは問いません。ただ、15年という長さは覚えておきたい数字です。
夜のない家に、自分で名前をつけた34歳の人
34歳の人の家は、結婚前から夜は数えるほど。完全に途絶えて、5年。子どもがほしい、という声が上がり始めた頃には、もう終わっていた。
今は開き直って、自分たちを仲良しのレス夫婦と呼んでいる。この人が別れない中身は、立て直す希望とは少し違うもの。
(今の暮らしを壊す想像のほうが、よほど怖い)
子どもがいない家でも、この怖さは起きる。いれば、なおのこと重い。
求めるのをやめ、話すのもやめたれいなさん
40歳のれいなさんは、拒まれ続けるうちに、求めることを諦めました。話しても耳を貸してくれない日が重なり、話すことも諦めた。
(慣れたころには、心までずいぶん離れていた)
今、そう振り返るれいなさん。それでも、届にはすぐ手がのびません。諦めを重ねた年月のうちに、慣れそのものが毎日を回す技術になっていたから。
外からはただの我慢に見えても、内側では、手放せば家ごと傾きそうな支え。れいなさんが歩いているのは、まだその坂の途中。
手をつないだ夜を覚えている、36歳の人
36歳の人は、5年前は週3で夜があり、手を握り合って眠っていました。今は3年、何もない。愛情表現も消え、一緒に寝ようとすると拒まれます。
(夫婦なんて、こんなものか)
そう思いながら、相手を変わらず愛している。愛している、と、別れない、が同じ一行に並ぶ家です。嫌いの証拠にならない空白ほど、区切りをつける場所が、どこにもない。この人もまだ、答えの手前に立ったまま。
夫婦がレスのまま離婚したくないなら、残すものを先に決める
レスのまま同じ家で暮らすなら、先に決めたいのは禁止より、手元に残すものです。愛と呼ぶ家も、生活と言い切る家も、期限つきと決めた家も、夜が戻る保証はない。それでも、今の約束として二人で読める形にできれば、その暮らしは敗北になりません。
まずは、離れたくない理由の中身をのぞく
愛なのか、生活なのか、壊す想像が怖いのか。お金、住まい、子どもの事情が混ざっていてもいい。ただ、中身だけは自分で把握しておくと強い。
家族のために耐えている、と言うと、耐える側の頭上にだけ光の輪が浮かぶ(笑)
気づけば相手は、耐えさせる悪役の席に。
子どもがいるから。その一言で、全部を片づけていない?子育てが終わったとたん、ここにいる理由の言葉が見つからなくなりがちです。
夕飯の買い物の途中で、自分が何をしたかったのかを思い出した女性がいます。夫のことは嫌いじゃない。でも、もう恋人ではない。
(妻という役だけで、終わりたくない)
禁止の横に、残すものを並べる小さな工夫
禁止だけで組んだ同居は、壁の線だけ引いた間取り図のようなもの。住めなくはない。でも、どこで何をする家なのかが見えません。
夜をめぐる話がすれ違ったままなら、触れ合いの代わりに残せるつながりを並べてみる。寝室を分けずにおく、休日に散歩へ出る、寝る前に少し話す。どこまでなら大丈夫かは、したくない人の言葉で決めてもらう。
答えの出ない問いを何度も繰り返すときは、期限を置いてみる。次の記念日の夜に、もう一度この話をする。期限つきなら、意外とどちらも息ができる!
お金の話を避けてきたなら、家計の分担と住まいの見通しを、数字で確かめ合う。お子さんのいる家なら、二人の距離の説明も、前もって言葉を合わせておく。
息が詰まる日が続いたら、ひとりになれる時間を、後ろめたさ抜きで約束に入れる。
相手の訴えを軽くいなす一言が、口の端まで来たら、それを食卓から下ろす。代わりに、相手が何年それを抱えてきたのかを聞いてみて。
最後に、二人で一本の映画を観たいと思えるかどうか。思えるなら、それが約束の真ん中になる。思えないなら、住所を分け合うだけの暮らしに変わっていないか、一度立ち止まって。
結局、何も決めず黙ったまま続ける人も少なくない。それを負けと呼ぶ必要はない。ただ、黙ったままの年月は、相手のそれぐらい、をずっと許す約束にもなる。そこだけは、薄目を開けてでも見ておきたい。
決めきれない性分を、約束づくりの力に
迷い続けてきた性分も、約束を組み立てる道具になりえます。
| 短所に見えるところ | 裏返すと | 活かせる場面 |
|---|---|---|
| 別れる決心がいつまでもつかない | 関係を簡単に切り捨てない | 譲れないものを一つずつ口に出せる |
| お金や住まいを先に計算してしまう | 暮らしを現実的に見られる | 家計や住まいの分担を具体的に決められる |
| 波風を立てるのが苦手 | 家の空気を守ろうとする | 子どもへの説明を落ち着いてそろえられる |
| したくない気持ちを言い出せない | 相手を傷つけまいとする | 触れ合い以外の時間を自分から提案できる |
レスでも離婚したくない夫婦の、よくある質問
Q.レスのまま一緒にいる夫婦は、この先もうまくいく?
続いている家は、実際にあります。ただ、夜が帰ってくる約束まではない。残すものと期限を言葉にしておくと、保証書のない約束でも、二人で読み返せます。
Q.相手に離婚を切り出されたら、どう返せばいい?
すぐに変わると誓う前に、相手の話を最後まで聞くことです。切り出した側にとって、それはたぶん突然ではない。変えられることと変えられないことを、第三者を交えて確かめる道もあります。
Q.したくない側は、我慢して夜に応じるしかない?
無理に応じる義務はありません。体のことは、話し合いの勝ち負けで決められないから。かわりに、応じられる範囲の近さを、自分から言葉にしてみる。相手の暗闇に、目印がひとつ灯ることもあります。
まとめ
夫婦のレスが続いても、離婚したくない。その気持ちは、敗北でも、ただの我慢でもなかったはずです。
・愛でも生活でも怖さでも、ここに残る自分に罰を与えなくていい
・息苦しさの元は、仲良しの名付け、軽くあしらう返事、三方をふさぐ禁止、慣れ
・禁止より先に、つながり方、期限、家計、一人の時間を決めておく
・眠れない夜や締めつけを抱えたら、相談窓口に荷を半分持ってもらっていい
次の記念日にも、ショーケースの前でケーキを二つ選ぶなら。その箱の横に、二人で声に出して読める約束を、一枚だけ添えて。

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