ドラッグストアの奥の棚で、潤滑ゼリーの箱を手に取る。レジの列が目に入った瞬間、手のひらにじわっと汗。箱をそっと戻し、その夜、布団の中で検索したのはセックスレス解消アイテム。
下着に、アロマに、振動するタイプの道具。カートに入れては消して、また入れて。すでに試したのに空気はぴくりとも動かず、ため息で終わった夜もあったはず。
レスの空白を経験した10人の話を並べてみました。動き出した家が覚えていたのは、高い箱より、薬局の一本と、その蓋を開けてくれた手。
注文ボタンを押す前に、確かめたいことは3つ。
・道具を当てにする自分を、責めずにすむ理由
・レスが続く背景と、買った物が効きにくい原因
・痛みと空気を整える、物の選び方と出し方
セックスレスを解消するアイテムに頼るのは、恥ずかしくない
道具に手をのばすのは、二人をまだ見限っていない人の動きです。効かなかった経験も、魅力の判定には使えません。理由は3つ。
まず、言葉より物のほうが切り出しやすいのは、まっとうな感覚。口で誘って断られたら、自分まるごとにノーを出された気がしますよね。物をあいだにはさめば、その矛先が少しだけそれる。割れ物を包むクッション材のような知恵です。
31歳のりくさんに言わせれば、道具がある今は、空白即離婚の時代じゃない。一人で満たせる物が、救いになる場面もあるわけです。
次に、外れた理由が外見にあるとは限らないこと。香りを変える、体を絞る、すっぴんを見せない。拒む理由が別の場所にあれば、努力は相手まで届かない。届かないまま重ねるほど、矢印はいつしか自分のほうへ折れ曲がります。
(はぁ…やっぱり私に色気がないから?)
10人のうち、つまずきの原因が本人の見た目だった人は一人もいません。
そして3つ目。解消アイテムという呼び方そのものが、少し的外れ。穴をふさげばまた走れる、パンクしたタイヤ扱いの響きです。
実際の空白は、何年もかけて重なったミルフィーユに近いもの。育児と仕事、相手への気兼ね、体の痛み、言いそびれた好み。いちばん上に新品をのせても、下の層はそのまま。一つの箱で片づかないのは、当たり前なんですよ!
セックスレスが続くのはなぜ?解消アイテムが空振りする5つの原因
レスが長引く裏では、痛みや暮らし、言えない本音がひとかたまりに絡まっている家も。物が空回りする理由は、意外と箱の外にあるんです。
痛いから、が気分の問題に見えている
誘われた瞬間、体のほうが先にこわばる。理由を聞かれても、気分じゃない、としか返せない。そんな夜に覚えは?
年齢を重ねるにつれ、体の潤いが足りず痛みやすくなる人もいます。痛くて避けているのに、相手には気が乗らないだけに見えてしまう。後で登場するたくやさんの家も、その一軒でした。
虫歯が痛くて固い物を避ける人を、好き嫌いが多いと決めつけるのと、よく似た話。痛む体にどんな道具を足しても、ほぐれにくいんですよね。
子どもの気配と、急げない夜
隣の部屋の寝息に耳をすませ、小さな物音にもびくっとする。明日の支度が頭をよぎって、時計ばかり目で追ってしまう。その状況で体だけゆるめるなんて、無理な相談でしょ?
子どもがぐっすり眠った部屋と、誰にも急かされない時間。この2つがそろわないうちは、物の出番もなかなか来ません。正直言って、道具の性能より、壁一枚向こうの気配のほうが強いもの。
言えなかった好みと、疲れた相手への遠慮
言えば引かれる気がして、自分の好みを胸にしまったまま。疲れた顔の相手を前に、誘いかけた言葉を喉の奥へ戻してしまう。あなたの家は、どうでしょう?
39歳のゆいさん。妊娠を境に、夫婦には10年の空白が生まれました。転がり出したのは、振動する道具を試した夜のこと。そのまま10年ぶりに体を重ね、寝入るまで空白の理由を語り合ったそう。
ゆいさんには、夫に言えずにいた好みがあったこと。夫は夫で、育児に疲れた妻を誘うのが申し訳なかったこと。声に出せない注文を抱えたまま、同じテーブルに座り続けていた二人です。
強い刺激と一人用の道具が、二人を遠ざける
一人で済ませたほうが早いし、断られる心配もない。そんな理由で、誘う日を後回しにしたことは?
42歳のまなさんにも、強い刺激に体がなじみすぎた頃がありました。ふつうのふれ合いが、どこか物足りない。激辛ラーメンが続いたあとの、薄味のおみそ汁みたいに。
りくさんの言う救いには、裏の顔も。一人で完結できる物が増えるほど、夫婦の再開は急がなくてよくなる。非常食があると、買い出しをつい先延ばしにするのと同じ。一人の快適さばかり磨いていると、相手の存在が邪魔にさえ見えてくる。
箱を出すタイミングと、使いこなしの壁
箱を出したとたん、相手の顔がすっと固まる。あの時の沈黙、思い出すだけで今も胃が重い…
つまずいた話に共通するのは、始まる寸前に物を出したこと。心の準備がないまま突然箱を開けられると、同意の催促として映ってしまう。玄関先でいきなり契約書を差し出す、訪問販売と変わりません。
38歳のみほさんは、12年のレスのあいだ、二人で使う道具に期待してきた人。ただ、リング型の二人用には疑問もわいたそう。
これ、本当に使いこなせる人なんているの?
コツのいる道具は、久しぶりの二人には荷が重い。うまく使えなかった箱は、組み立て損ねた棚みたいに、傾いたまま壁ぎわに残る。失敗の証拠がたまるほど、次の箱を開ける勇気はしぼむ一方。
【体験談】アイテムを試した4人の、空振りと小さな変化
効かないまま笑い話にした人もいれば、たった一本で空気が変わった家も。
下着もお酒も空を切った6年を、今は笑うえみさん
36歳のえみさんが挙げる、効き目のなかった物のリストは細かい。押してだめなら引いてみる作戦は、空回り。セクシーな下着は、見せる場面が最後まで来なかった。アロマは不発。お酒に至っては、飲ませるとすぐ相手が寝てしまう(泣)
話し合いでは、タイミングも伝え方も外した。
(あれもこれも、ぜんぶ無駄だった…)
今のえみさんは、6年の空白は頑固だった、と笑います。笑えるようになるまで、下着はタグも切られず、引き出しの奥で眠ったまま。
届かない努力に物を積み増すと、舞台のセットだけ先に仕上がってしまう。役者の二人は、まだ楽屋でジャージ姿なのに。
話し合いより先に、環境と潤滑剤を整えたたくやさん
44歳のたくやさん宅では、痛みゆえの拒否が長く誤解されていました。
(嫌がられているのが俺じゃなく環境なら、そっちを動かせばいい)
そう考えた彼が先にそろえたのは、子どもが寝たあとの部屋と、急がない夜。それに、摩擦を減らす潤滑剤です。口で説くより、用意して見せるほうが本気が伝わると考えたんですね。
誤解を解いたのは、話し合いの言葉ではなく、痛みがやわらいだ夜。体の負担が軽くなると、断りの意味まで違って見えてくる。
ゼリーの話を切り出すのに、3日を要したちかさん
更年期の入り口で潤いが減ってきた、45歳のちかさん。女性用の潤滑ゼリーは買ったものの、夫に言えないまま夜が3回過ぎる。ようやく話した夜、夫は「病気みたいで嫌」と言いかけて、口をつぐむ。頭を下げたのは、後日のことです。
(あのとき言葉を止めたのは、自分の衰えを見たくなかったからだ)
ゼリーは、二人が重ねた年月を目に見える形にしてしまう。それを嫌う家ほど痛みを選び、間隔が空いていく。空いた穴を派手で高い道具で埋めにかかり、要る一本は後回し。
刺激の強さを追うのをやめた、さやかさん
41歳のさやかさんは、レスが解けたばかりのころ、何種類か道具を試しました。値の張る吸引タイプは、刺激が強すぎて体に合わない。満足できる道具には、とうとう出会えずじまい。
(結局、どの道具より夫のほうがいい…)
好みを知って言葉にしやすくなるのは、道具の良さ。ただ、人の手には出せない強さに慣れると、夫とのひとときが物足りなくなるおそれも。そこで彼女は、強さを追いかけるのをやめた。回数は少ないまま。それでも、拒む夜は減っていきました。
これからどうすればいい?痛みから先に整える、アイテムの使い方
ゴールは、アイテム頼みで空白を一気に埋めきることにはない。物がなめらかにできるのは、最後の数センチだけ。最初の数メートルを進めるのは、隣に腰かけ、肩や手に触れる何気ない時間。
うまくいった家は、物より先にこの時間を取り戻していました。お酒で眠らせず、下着の見せ場づくりにも力まなかった。
すがりたい気持ちの置き場を、先に用意する
物に頼りたい自分を、まずは追い払わずにいてあげて。ゆいさん夫婦にとって、道具はしまいこんだ本音の通り道でした。10年損したね、と笑ったのも、同じ夜のこと。再開のきっかけが、人に胸を張れるほどきれいでなくてもかまわない。二人の中で起きたのは、10年分の遠慮の雪崩!
箱を開ける前に試したい、小さな工夫
痛みを感じるなら、派手な道具より、まず潤滑ゼリー1本から。選ぶときは、性交時の使用を想定した表示を確かめてください。マッサージ用のローションは別物で、代わりに使うと乾いてトラブルのもとに。薬局の棚にも並んでいます。
箱を見せたくなったら、いざという場面は避け、何もない夜に話題にしてみる。ベッドの脇に、避妊具と水と潤滑ゼリーを並べておく。そんなセットをまねしたのが、34歳のなおさん。
置いてあること自体が、今夜は急がないよ、の合図になる家も。旅館の座卓で待つ、お茶とお菓子に近い存在です。ただ、置くだけでは合図止まり。
自分ばかり空回りするときは、主役を降りる時間をつくってみる。47歳のこうじさんは、自分を不器用だと言います。手だけで過ごした10年より、温めたオイルに弱い振動を添えた1回。次を望む言葉が出やすかったのは、そちらでした。
主役しかいない夜は、空白明けのオーディション会場になりがち。
何を選ぶか迷ったら、つくりの単純な二人用から。空白の長い体には、単純さのほうがやさしく届きます。強さを追いすぎないのも、さやかさん流。
道具を使うなら、洗って乾かし、しまうまでが1セットです。まなさんを手こずらせたのも、この後始末でした。子どもの目に触れない置き場所も、先に確保を。
どの工夫も、断る自由があってはじめて生きてきます。今夜はやめておく、と言われたら、そこで手を止める。断ったせいで翌朝の空気が冷えたり、家事で仕返しされたりしない。その安心の上でなら、物は頼もしい相棒になってくれます。
痛みも気分の沈みも長引くときは
ゼリーを使っても痛む、潤いの減りが気がかり。そんな体の悩みや更年期の揺らぎなら、婦人科へ。男性側の勃起の悩みは、泌尿器科が窓口です。
話し合いが毎回こじれる二人の頼り先は、夫婦カウンセラー。性の悩みを専門にするセラピストを訪ねる人も。落ちこみや寝つきの悪さは、心療内科で診てもらえます。暮らしが回らなくなる前に、どこか一か所へ声をかけてみて。
セックスレス解消アイテムのよくある質問
Q.高いアイテムほど、レスの解消に効きますか?
値段の高さと効き目は、同じ物差しでは測れません。高価で刺激の強い物が、かえって体を置いてけぼりにすることも。最初の1本は、痛みを和らげる潤滑剤か、シンプルな二人用で十分です。
Q.道具を使いたいと伝えたら、相手に引かれる?
切り出す時間と言い方しだいで、受け止め方は変わります。寝室ではなく、食後のお茶の時間など、何でもない場面で話すのがコツ。相手が気乗りしない様子なら、その答えもいったん受け取っておきましょう。
Q.痛みが続くのは、年齢のせい?病気の可能性は?
年齢による潤いの減少もあれば、別の病気が痛みの陰にひそむことも。潤滑剤を使っても引かない痛みは、耐え続けなくていいサイン。早めに婦人科で、体の状態を確かめてもらって。
まとめ
物を探し続ける手は、二人の時間をまだあきらめていない手。セックスレス解消アイテムで結果が出なくても、魅力まで削れたわけじゃない。
再開にこぎつけた二人の記憶に残るのは、モーターの音より、痛くなかった、のひと言。その短い感想が、次の週の二人を連れてきます。

コメント