駅までの夜道で、彼がふいに歩く速度をゆるめる。
え、待って。これってキスの流れ…?
とっさにうつむいて、バッグの中を探るふりをする。顔がタイプじゃない彼と、どうしてもキスできない。優しいし話も合うのに、唇が近づく場面を想像しただけで首のうしろがこわばる。
こんなにいい人なのに。私って、性格悪すぎない?
中身より顔で選ぶ自分が、ひどく浅はかに思えてくる。相手にも失礼な気がして、胸の奥がずしんと沈む夜。
でも、ここだけははっきりさせておきたいんです。近い距離で顔を見つめ続けられるかどうかは、体が決める感覚の話。人柄の良し悪しとは、住んでいる場所がまるで別。
この記事の土台は、顔の好みと恋のあいだで揺れた10人の話。
読み終えるころ、手元に残るのはこの3つ。
・顔の好みで揺れても、冷たい人間ではない根拠 ・唇が向かない相手が生まれる、4つのわけ ・無理なく相手と向き合う、明日からの工夫
顔がタイプじゃないとキスできない自分を、許していい3つの理由
好みでない顔と唇を重ねられないのは、心が冷たい証拠ではありません。キスという行為が、相手の顔をいちばん近くで受け止めるものだからです。
ひとつ目は、キスの距離そのもの。ハグなら肩ごしに景色が見えて、手をつなげば横顔だけで済みます。ところが唇が近づく数秒間は、相手の顔が視界をまるごと占領する。
映画館の最前列に似ています。好きな作品なら夢中になれても、そうでなければ首が痛いだけの席でしょ?体が逃げたがるのも、当然の反応です。
ふたつ目に、顔の判定は考えるより先に出てしまうもの。人は顔を見た瞬間、ほぼ無意識に好き嫌いを感じとるといわれます。
26歳のなおさんは、友達のマッチング相手の写真を見るたび、つい聞いてしまう。
「この顔とキスできる?」
好みは、整った顔立ちの芸能人。自分でも何様だろうと苦笑いするそう。
(こんなの、ひねくれてるよね私…)
それでも写真を見た瞬間の判定は、1ミリも動きません。意思より手前で、答えが出てしまうから。選べるのは、そのあとの振る舞いだけなんですよね。
最後に、顔が合わないことと相手の価値は、まったくの別物です。顔の好みが違う人とでも、歩く速さを合わせたり、仕事ぶりを尊敬したりはできます。けれど顔が寄ってくると、体だけが一歩うしろへ下がってしまう。それは相手の欠点ではなく、ふたりの組み合わせの問題です。
正直言って、理屈で説き伏せてキスできるようになった人は、ほぼ見当たりません。パクチーが苦手な人に、栄養の話をどれだけしても箸が伸びないのと同じ。顔に反応してしまう自分を、裁く理由なんてないんです!
顔がタイプじゃない相手とキスできないのはなぜ?思い当たる4つの原因
原因はひとつに絞れません。顔への感じ方、過去の経験、いまの出会い方。いくつかが重なって、唇にブレーキがかかることもあります。
体より顔のほうが、好みの関所が厳しい
手をつなぐくらいなら平気。ハグも、まあぎりぎりセーフ。なのにキスの間合いに入る場面だけは、想像するだけで息が浅くなる。そんな感覚に、心当たりは?
23歳のりなさんは、キスのハードルがとびきり高い人。極端に言えば、体の関係は持ててもキスはできないほど。勢いがあっても、心底タイプの相手以外はお断り。唇を寄せる以上、顔だけは避けて通れません。
27歳のあやかさんも、しんどいのは行為より顔の近さのほう。好みの顔ならキス顔さえ眺めていられるのに、そうでないと途中で素に戻ってしまう。
我慢した記憶が、体に居座っている
流されてキスした帰り道、どっと体が重くなった。
(あの時、断っておけばよかった…)
そんな記憶が、ふとした拍子によみがえることは?
あやかさんは昔、それほどタイプではない相手とのキスのあと、人知れず吐きました。31歳のかなえさんは、条件で顔をのみこんだ結果、不快さと自己嫌悪を抱えることに。
33歳のまどかさんは逆に、顔がタイプすぎる男性と付き合いました。眼福だったのは、最初のうちだけ。顔に慣れた途端、それを超える魅力が見つからず、泥沼のまま幕切れに。
幸せの頂点が、付き合い始めのころにもう来ていたとは(泣)
耐えた記憶も、顔に頼りきった記憶も、次の恋の物差しをずらしていくのでしょう。
選んでくれる人と、選びたい人がすれ違う
想いを寄せてくれる人と、自分が惹かれる人が、なぜか交わらない。そんなアプリの画面を、今夜も親指で流していませんか?右へ左へ、指の筋トレだけがはかどる夜(笑)
29歳のほのかさんは、アプリで出口を見失った人。好意を向けてくれるのは、顔がタイプの圏外にいる人ばかり。好みの顔は、アプリの中に見当たらない。体だけの関係でもいい気がするのに、それだけで終わるのは嫌。この堂々めぐりに、彼女がつけた名前は百億回目の孤独。
条件をゆるめれば、出会いの数は増える。ただ、その先にはキスがあり、毎朝その顔と目覚める日々がある。婚活の場では、朝の顔を想像して無理なら先はないと言われたそう。理屈が腑に落ちるほど、条件を下げる勇気はすり減っていく。
顔より中身、という周りの正論も、こだわる自分を意地悪な人間に見せてくる。
顔が整いすぎていても、唇が止まることがある
整った顔の人の隣で、ガラスに映る自分から目をそらしたくなったことは?
意外な盲点が、顔がよすぎて進めないケース。若いころ面食いだったのに、顔がよすぎる男性をあえて選ばなかった人もいます。隣にいると自分がぶすに思えて、自己肯定感がしぼんでいく。わがままひとつ、言えなくなるのだとか。
遠目に眺めるだけなら、何の問題もないのに。照明のきつすぎる試着室に、閉じこめられる感覚でしょうか。結局、問題は顔の点数ではなく、隣でのびのび息ができるかどうか。
【体験談】好みと違う顔を前に、3人が出した答え
3人の答えは、きれいにはそろいません。顔ごと好きになれた人もいれば、今も揺れている人も。
条件は満点なのに、体が起動しないゆずさん
25歳のゆずさんにとって、その人はほとんど奇跡でした。かわいいも好きも惜しまず口にして、だらしなさまで丸ごと受け止めてくれる。返信は早く、急かすことは一度もない。ただひとつ、顔だけが絶望的なまでに好みの外側。
(中身は満点って、ちゃんとわかってるのに…)
ゆずさんいわく、端子の形だけが規格とかみ合わず、本体ごと起動しない状態。無理に補正をかけて付き合い続ければ、どの機能もマイナスに傾いていく。想ってくれる人を切り捨てる後ろめたさと、顔についてだけはごまかせない自分。そのふたつに挟まれて、ゆずさんは今も答えを出せずにいます。
苦手な濃い顔を、愛されるうちに好きになったちひろさん
28歳のちひろさんは塩顔好き。一方の夫は、正反対の濃い顔立ちでした。第一印象は、ただひとこと。
(うわ、濃い…)
顔がどストライクの元カレふたりとは、うまくいかない恋でも離れられなかったそう。今あの顔を思い返しても、かっこいいとすら思えないのに。
転機は、雨の夜。子どもに上着を貸したあと、夫が黙ってパーカーをかぶせてくれた。伝わってきた体温と匂いが、顔の印象を追い越していったんです。
今では、長いまつ毛も横顔の線も、毎日眺めても飽きることがないとか!大事にされるたび、その顔への想いが深まっていった、とちひろさん。
ただ、こんな変化はむしろ少数派。顔の印象が変わらなかった人のほうが、数では多いのです。
条件で顔を我慢したあと、面食いになったかなえさん
かなえさんが高校時代に選んだのは、学年の人気者。進学も将来性も期待できて、親の肩書きまでついてくる。顔は好みと違っても、優良物件という言葉に背中を押されました。
けれど時間とともに、性格のずれまで目につきはじめる。
(顔も中身もタイプと違う人の隣、もう無理…)
一緒にいる時間が不愉快になり、彼女は自分から関係を切りました。それ以来、すっかり面食いに。とはいえ今は、顔さえよければ万事うまくいく、とも考えていません。ただ、出会いの段階で顔に違和感がある相手を、スペックの高さで帳消しにはしない。
この先どうする?顔の好みを持ったまま恋と折り合うコツ
目指すのは、顔の好みを消すことじゃない。自分を守る判断材料として、うまく使うことです。
顔で選んでしまう自分に、まず許可を出す
24歳のみさきさんは、自分の好みをはっきり口にするタイプ。塩顔で、背の高い人。自分とのつり合いがとれていないのも、承知のうえ。それでも好みから外れた顔が迫る図を思い描くと、真っ先に無理が立ち上がる。
友人からは、こう励まされたことも。
「いいところがあれば、気にならなくなるよ」
でも、何気ない場面で(やっぱり顔が…)がよぎるなら、そこは譲れない条件。それが、今の彼女の答えです。
譲れない部分を人柄で上から塗っても、下地の色はいつか透けてきます。透けるのはきまって、唇が近づいたその瞬間。
(まさか私って、こんなに顔で選ぶ人だったの…?)
顔の好みは、身勝手さではなく、あなたの輪郭をつくる線の一本。認めたとたん、肩の力がふっと抜けるはず。
迷いが晴れないときに試したいこと
付き合うか迷っているときは、朝、隣で眠っている顔を思い浮かべてみてください。寝ぐせのついた髪に、半びらきの口。その顔におはようと笑いかけられるか、体の反応をそっと確かめる。
22歳のそらさんも、朝の寝顔で無理なら努力は実りにくい、と忠告されたひとり。結果は、その言葉どおりでした。地味だけど、マジで侮れません!
相手の欠点が気になりだしたときは、3つの箱に仕分けてみる。そらさんの話にも出てくる、生理的に無理かどうかの見分け方です。店員への態度やうそ、お金の使い方は人格の箱。ここが気になるなら、離れていい。食べ方のクセや服のセンスは、重箱の隅をつついているだけの場合も。顔は、そのどちらでもない真ん中の箱。近い距離でだけ鳴りだす、体の警報のようなものです。
突然キスの空気になって体がこわばったときは、別の触れ合いを差し出してみる。今日は手をつなぎたいな、のひと言で十分です。我慢して重ねたキスほど、あとで体に重たく残りやすいので。
離れると決めたときは、相手を下げる言葉ではなく、自分の感覚の話として伝えてみる。冷たく見られても体の声を守り、吐かずに迎えられる朝を選んだ人は何人もいます。理想の顔が現れる保証なんて、どこにもないのに。
顔へのこだわりは、裏返せばあなたの武器になる
顔にこだわる感覚は、裏を返せば、自分をすり減らさないための防犯ブザー。表にすると、こんな具合。
| 短所に見えるところ | 裏返すと | 活かせる場面 |
|---|---|---|
| 第一印象を顔で決めがち | 自分の感覚にうそをつかない | 流されて付き合う前に立ち止まれる |
| 好みの顔がはっきりしている | 心が動くものを知っている | 出会いの場で迷う時間を減らせる |
| キスが近づくと体が固まる | 体のサインに正直 | 無理な関係から早めに離れられる |
| 相手に申し訳なく思いやすい | 人を丁寧に扱いたい | 断るときも、相手を下げずに伝えられる |
責めていた部分と頼れる部分は、同じ根っこから伸びています。
自分を責める気持ちが手に負えないときは
自己嫌悪の声が鳴りやまず、夜中に何度も目が覚める。恋愛や触れ合いが頭をよぎるだけで、体がすくむ。仕事や食事にまで、影響がにじみ出している。
外の手を借りるなら、今です。絡まった気持ちをほどきたいなら、性や恋愛の相談に慣れたカウンセラーを頼る手も。眠りや食欲まで崩れているなら、心療内科を訪ねるのもひとつの道。
顔に関係なく触れ合いそのものに抵抗が続くなら、別の背景がある可能性も。キスを断ったことで責められる、しつこく迫られる。そういうときも、信頼できる人や専門家に早めに打ち明けてみて。
顔がタイプじゃない人とキスできないときに浮かぶ3つの疑問
Q.付き合ううちに、顔も好きになれますか?
なれる人もいますが、変わらない人のほうが多いのが実情です。ちひろさんのように、大切にされて顔への見方が変わったケースもあります。でも、変化を待つあいだ、我慢のキスを重ねることになりかねません。
Q.顔で相手を選ぶのは、失礼なことですか?
好みを持つこと自体は、失礼にはあたりません。顔の判定は一瞬で下るもので、スイッチのように切れるものではないからです。失礼になるのは、その判定を口に出して相手を下げたとき。胸にしまって、振る舞いで誠実さを示せば十分ですよ。
Q.キスできない彼と、このまま交際を続けても大丈夫?
無理をしてまで、関係にしがみつかなくていい。顔に惹かれないまま幼なじみと付き合った人は、情だけでこじれたと語ります。恋愛そのものが人生の必修科目ではない、と言い切る人も。
まとめ
顔がタイプじゃないとキスできないのは、浅はかさの表れではない。唇の距離で顔を受け入れられるかは、体が先に決めること。
・キスの距離での違和感は体の反応で、人柄とは無関係 ・原因は、顔への感度や過去の我慢、出会いのすれ違いの重なり ・朝の寝顔を想像する、欠点を仕分けるなど、確かめ方はある ・自己嫌悪が強いときや触れ合いに体がすくむときは、専門家を頼っていい
キスの手前で止まる体は、誰かを見下しているわけじゃない。あなたの近くにいていい顔を、正直に選び取ろうとしているだけです。

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