友だち家族とのバーベキューで、スマホを向けられる。もっと寄って、と言われて夫の腕に手をかけた。
この腕にさわるの、いつぶりだっけ…
夫婦でスキンシップがない。夜に限った話じゃありません。つなぐ手も、ハグも、肩にふれる指も。シャッターが鳴ると、指は逃げるように膝へ戻っていきます。帰り道、仲いいよね、と笑われた声が耳に残る。はぁ…家では、目もろくに合わないのに。
肌のぬくもりを欲しがるのは、わがままとも欲求不満とも違います。手を止めた相手のほうも、情の薄い人とは限らない。
触れ合いの消えた家で暮らす5人の話を、横に並べてみる。浮かんだのは性格の不一致ではなく、体の先読みと、何の気なしのひと言の積み重ね。
この先で拾い上げる話は、3つ。
・さわってほしい自分も、触れなくなった相手も、責める必要がない理由
・夜だけでなく、昼間の手や肩まで遠のいていく原因
・ハイタッチくらいの気軽さから、ぬくもりを戻していく工夫
夫婦でスキンシップがないのは、どちらかの心が冷えたせいじゃない
くっつきたい側も、手を引っこめた側も、心のどこかが故障しているのとは違う。そう考えるわけを、三つの方向から眺めてみる。
ひとつ目は、ほしいものが夜よりずっと広いこと。レスと口にしたとたん、話は性の方向へ引っぱられますよね。でも本当に足りないのは、肩に置かれる手や、おかえりと重なる目線だったりする。人のそばで安心したいという、根っこの感覚が満たされていないだけ。
ふたつ目は、手を止めた側にも、止めるだけのわけがあること。触れるたび寝室へ運ばれると学んだ人には、触れないことが身を守る盾。その防衛を冷たさと読めば、議題はまた夜の回数へ引き戻される。昼の肩の寂しさは、置き去りのまま。
みっつ目に、触れない家の多くは、性格が合わないのひと言では片づかないから。触れた先を読みすぎる体。空を切った手の記憶。なくても困らない、とこぼれた一言。そうしたものが、同じベッドの右と左に少しずつ積もっていくんです。積もったものなら、時間をかけて減らしていける。あなたに魅力がない証明でも、愛が枯れた証拠でもないでしょう?
スキンシップのない夫婦になるのはなぜ?日常の手まで遠のく4つの原因
昼間のぬくもりまで失われる原因は、大きく4つ。体が覚えた先読み、人前と家の落差、先に細る目と声、中身の抜けた約束です。原因探しは、誰かを被告席に座らせる作業とは違います。この空白は、あなた一人で招いたものじゃない。それを腑に落とすための手順です。
触れたら次へ進む、と覚えた体が昼間の手まで閉じる
肩をもんでくれていた手が、気づけば寝室への誘いにすり替わった。翌日から、肩もみさえ断りはじめた。この順番に、身に覚えは?
35歳で子育て中だった人が欲しかったのは、性を含まない、いたわりの接触でした。赤ちゃんがやっと寝ついた夜の誘いほど、しんどいものはなかった。なけなしの体力と一人の時間を奪う相手が、悪魔に見えたほど。触れたが最後、止まらない相手。ただのぬくもりの居場所は、どこにもなかった。母親の顔でいるときに性的な目で見られるのも、だんだん苦痛に。
(こんなの、うちだけなのかな…)
触れた手をOKの合図と受け取られるので、昼の接触まで避けたくなる。飲み会では、そんな話がいくつも重なるそうです。
手を置くたびに先を読まれる家では、読まれる側が日常の触れ合いをまとめて閉じます。閉じた姿を、今度は相手が、もう興味がないんだと読む。結局、読み違いが一周して、手すら取らない夫婦ができあがる。警報のあとにいつも電車が来た踏切は、やがて音だけで遮断機を下ろします。残るのは、止まれる触れ方だけ。
仲良し夫婦に見えるほど、家の空白は打ち明けにくい
友だちに、いい旦那さんだね、と言われて笑顔で返す。帰宅して鍵を回す指に、ずしりと重さがかかる夜は?
41歳のゆうこさんも、友だちからは幸せな夫婦だと思われています。けれど家では、会話もスキンシップもない。見せている顔と、肌の遠い毎日。その落差が、何よりこたえる。虚しさは、今も誰にも話せていません。
年賀状の家族写真は、毎年きちんと笑っている。受け取った人は、写真の外にある残りの一年を知りません。誰の目にも映らない空白は、相談もされないまま居座り続ける。
目と声が先に消えて、食卓が業務連絡になる
最後に、相手の目を見ておはようと言ったのは、いつでしょう?
夫がメニューの紙に、ごちそうさまの文字を残していく。40歳で、そんな暮らしを送る人もいます。紙に残せば、顔を合わせても挨拶はいらない。夫の中では、そういう決まりらしい。
(わかってる。もう慣れた。…でも、やっぱり寂しい)
38歳の陽子さんの家も、仲が悪いわけではない。ただ、手はつながないし、会話は業務連絡だけ。ドラマのラブシーンなんて、別の星の出来事です。レスの二文字が重すぎて、人には話せない。不幸じゃない。でも、幸せ?と聞かれたら、答えるまでに三秒かかる。
意外と、手より先に目と声が薄れていく家もある。用件だけが、宅配ボックスの荷物のように置かれては引き取られていく。紙で済む手軽さが、隣の人を同居人に近づけていく。
軽くかわされた手と、空っぽになった約束の言葉
伸ばした手を、するりとよけられた日は?一度なら笑って流せても、続くとじわじわ効いてくる(泣)
軽い拒絶は、靴に入りこんだ小石のようなもの。一つなら、まだ歩ける。たまるにつれて、相手へ向かう最初の一歩から痛みだす。
相手のことが大好きで、デートもして、一方的とはいえ触れ合いもあった。そう振り返る37歳の人もいます。妊活のころ、子どもが欲しいね、と口にしながら誘い、首を横に振られた。その夜を境に心が離れ、触れることさえ叶わなくなったそうです。崩れた順番は、体の拒否より先に、言葉の中身。欲しいね、のひと言が空砲に聞こえた夜から、手を出す理由が消えてしまった。こうなると、習慣づくりだけでは戻りにくい。手の練習より、あの夜の話が先に要ることもあります。
【体験談】ハグの約束からハイタッチの家まで、4人の手のゆくえ
動きだした家も、途中の家も。結末は、まだどこも白紙です。
話し合って、ハグから始めると決めたしみずさんの家
44歳のしみずさんの家は、ちゃんと話し合いました。妻は、体調の悪い日にはしたくない。前に具合が悪いまま応じて、かえって悪化したことがあるから。夫の言い分は、その逆です。しない状態こそが不調の一因だから、スキンシップだけでもほしい。
二人はまぁ納得して、まずはハグからと決めました。始まりとしては、正直ちょっと地味すぎません?(笑)それでも、その先へ流れない腕なら、回すのも気楽なはず。夜まで届くのか、ハグで止まるのか。答えは、まだこれから。
手をのばす怖さを打ち明けた、真野さん
42歳の真野さんは、長い空白と、軽く拒まれた日々を重ねてきました。自分から触れるのが怖い。キスどころか、指先がふれるのさえ無理。思いきって、その怖さを言葉にして渡すと、返事はこうでした。
「スキンシップ自体、なくてもまあいっかって思ってた」
(夜もないうえに、触れることもない。これって何なの…)
なくていい、と返された側の寂しさは、ただの過剰反応に格下げされてしまう。格下げされた寂しさは、次から声にならない。のみこんだぶんだけ、同じ部屋がしんと広く感じられる。真野さんの問いは、まだ宙に浮いたまま。
陽性の報告の日に、ハイタッチをしたここさん
32歳のここさんの家では、触れ合いがほとんどありません。陽性の報告をしたその日、二人の手のひらがぱちんと鳴りました。
(毎日ハイタッチなら、苦じゃないかな)
許せる接触の天井が、ハイタッチ止まりの家。その低さを、相性の悪さでくくるのは少し早い。天井の下に、触れた先がいつも次へ流れた記憶が沈んでいる家も。ここさんの家の入口は、たぶんその高さ。
人前で触れ合う夫婦に、視線を奪われるゆうこさん
ゆうこさんは習い事の集まりで、よその夫婦の様子をつい確かめてしまう。あの家は、まだ夜があるのかな。人前で自然に寄り添う二人を見ると、腹が立つほどうらやましい。していないらしい人を誘ってみようか。そんな考えが、頭をかすめたことも。
空白が長引くほど、寂しさは見慣れた景色に色をつけていく。よぎった考えは、寂しさの深さを映しているだけ。思うことと、実際に動くことの間には、はっきり線を引いておきたい。ゆうこさんの話は、まだ途中。
これからどうする?次へ進まない触れ方を、暮らしに少しずつ戻す
目指すのは、昔の二人に戻ることでも、夜を取り返すことでもない。義務とも夜の前置きとも無縁の触れ方を、一つずつ暮らしに置き直していく。
まずは、恋しがる自分も、手を引いた自分も否定しない
寄り添いたい自分を、みっともないと叱らなくていい。手を止めてきた側も、身を守ってきた自分に、冷たい人という判決を下さないで。
子どもの頭には、迷わず手が伸びる。なのに配偶者の肩の手前で、指先がふっと固まる。その止まり方に気づいたら、理由を一行だけ言葉にしてみてください。怖いのか、面倒なのか。その先へ運ばれるのが嫌なのか。名前がつくと、責める矛先が自分からも相手からも外れていく。
暮らしの中で試したい、手の戻し方
ハグを戻したいときは、出かける前の玄関を選んでみる。靴をはいたあとなら、その先へは進みようがありません。背中を二回とんとん、で離れる。その合図を、腕を回す前に取り交わしておく。
ハイタッチまでなら平気なときは、それを毎日の定位置にしてみる。ゴミ出しを終えた朝にも、ぱちん!慣れたら、すれ違いざまに肩へ手を置く。次は、ソファで肩を並べて何もしない時間を。冷凍の肉も、レンジで急げば端だけ煮えて芯は凍ったまま。ひと晩かけて冷蔵庫で戻すほうが、ずっとやわらかいんだよね。
用件がメモやメッセージで済む日は、一回だけ顔を見て声で伝えてみる。いってらっしゃいでも、おやすみでもいい。手より先に消えた目と声なら、手より先に取り戻せるはず!
触れる練習がぎくしゃくするときは、わだかまりの話を先にしてみる。よけられた手のこと、信じられずにいる言葉のこと。胸につかえがあると、目的のない接触をただ味わうのは難しいもの。湯たんぽを抱くのに、理由なんて要らないのにね。
触れられるのがつらい側は、嫌な触れ方をはっきり断っていい。夫婦だからといって、同意していない接触まで引き受ける義務はない。余裕があれば、これならいい、を一つ添えてみる。寝室へ続く流れは断る。でも、並んで歩くときの腕ならいい、のように。全面通行止めの札の横に、迂回路の矢印を一枚。それだけで、拒むことが封鎖ではなくなります。断ったあとで、ため息や無視という仕返しが来ない安心が土台です。
触れ合いを恋しがる感度の、生かしどころ
| 短所に見えるところ | 裏返すと | 活かせる場面 |
|---|---|---|
| 触れてほしい気持ちを言えずに飲みこむ | 相手のペースを待てる | 遅い速度で触れ合いを広げるとき |
| 人前では仲のいい顔を保ってしまう | 場の空気を守れる | 二人きりの時間にも、その気配りを向けるとき |
| 嫌な触れ方に、体がすぐこわばる | 自分の境界をよく知っている | 平気な触れ方を言葉で渡すとき |
夫婦のスキンシップがないときの、よくある質問
Q.スキンシップがなくても、仲のいい夫婦はいる?
はい、います。ただ、外から区別をつけるのは難しい。モールで、手をつなぎそうでつながない初老の二人に和む人もいます。違いが出るのは、家に帰ってからの肩のあたり。触れなくても寂しくならない二人なら、それも一つの形です。
Q.なくても平気、と返されたときの寂しさは大げさ?
大げさではありません。しっくりくる触れ合いの量は、人によってもともと違うもの。少ないほうの感覚が、正解を決める物差しではないはず。
Q.夜より先に、日常のスキンシップを戻すのは遠回り?
遠回りどころか、自然な順番です。友だちのように話すだけの二人が夜だけ戻そうとすると、ぎくしゃくしやすいもの。手や肩が先に戻っていれば、夜の話も地続きで考えられます。
まとめ
夫婦でスキンシップがない寂しさは、誰にも見えない場所で育ちます。
・ぬくもりが恋しい自分も、閉じた相手の防衛も、責める理由はない ・原因には、先読みを覚えた体、人前との落差、目と声の後退、空になった言葉がある ・玄関のハグ、毎日のハイタッチ、顔を見てのひと言から、遅い速度で戻す
まずはハイタッチから。肩の手前で止まっていた指先も、そこからまた動きだせるはずです。

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