隣で寝返りを打つ音がして、こちらへ腕を回してくる気配。目を閉じたまま、寝息のリズムを必死でまねる。
前は、私のほうから誘うくらいだったのに…
30代で性欲がなくなった女性って、どこか病気なの?それとも、もう女として終わり?朝になると、寝たふりをした自分に、胸の奥がちくちくする。
欲が消えた体も、すぐには戻らない体も、壊れてはいません。病気が裏に隠れている、そんな体もある。体が今は、生きるほうへ力を回しているだけ、ということも。いずれにしても、あなたが責めを負ういわれはありません。
性欲がなくなった30代女性は、病気でもそうでなくても壊れていない
欲が遠のいた理由が病気でも、毎日の重さでも、あなたの体に故障なんてない。言いきれる裏づけを、一つずつ手渡したい。
ひとつ目は、30代が性欲のピークという話が、ただの平均にすぎないこと。航空写真には街の形が写っても、一軒ずつの台所の明かりまでは写りません。あなたの体の今夜の声は、平均のどこにも載っていない。
(平均って、いったい誰の体の話?)
一人ひとりの体を裁く定規として、作られた数字じゃないのだから。
ふたつ目は、欲がなさそうに見える状態の中身が、一人ずつまったく違うこと。産後で、肌に触れられるだけで疲れてしまう。痛かった記憶が、体に残っている。気分が沈んで、手足まで重い。外から見れば、どれも同じ欲のなさに映ります。
中身をのぞけば、休みたい体の正直な反応ばかり。あなたが関係を壊した証拠には、ひとつもならない。
みっつ目は、病気かどうか白黒つけたい気持ちの、本当の中身。それは、罪悪感を下ろせる窓口を探す心の動きです。気合い不足で片づけたくない。女を卒業したなんて、思いたくない。その願いは、甘えとは別物でしょう?
窓口も、ひとつきりじゃない。心、婦人科、内科、睡眠、薬の説明、産後の体、そして二人の間の言葉。どの扉から入っても、行き着く先はあなたを責めない場所であっていい!
30代女性の性欲がなくなったのは病気?心と体と暮らしに潜む5つの原因
気分の沈みや自律神経の揺らぎなど、心がくたびれている
好きだった店の新作にも、心が少しも弾まない。こういう日々に覚えはない?
心が沈んだり、自律神経の調子が崩れたりすると、欲も引いていきやすい。うつ状態で体が重い夜は、水を吸ったコートを着たまま横になるようなもの。
診察室の椅子で涙をこぼし、自律神経、という一語だけを握って帰る人も。その一語が、じつは的確なこともある。厄介なのは、心の不調をやわらげる薬が、欲をさらに遠ざける場合もあること…
飲んでいる薬が、欲まで静かにさせている
薬が日課になってから、食べることへの興味まで薄れてきた。心当たりはある?
一部の薬には、性欲を下げる作用が出るものも。処方のとき、そこまで説明を受けずに飲みはじめることだって。何も知らされずに欲が消えれば、女性として終わったと、ひとり判決を下しがち。
出産後の体の揺れと寝不足に、母の役目が上乗せされる
子どもの寝顔には目を細めるのに、自分の体には目が向かない。そうした毎日を送っていない?
産後や授乳期は、ホルモンの状態が大きく揺れ動く時期。途切れ途切れの眠りに、目の回る忙しさ。触れ合いの順番が後ろへずれて当然です。
母の役目に一日じゅう追われると、女性としての自分がかすみがち。エプロンをつけっぱなしの日が続けば、下の服の色さえ忘れていくように。体型の変化を、鏡の前で持て余す日も。
これを病気に数えるかは、体ごとに答えが違う。ホルモンの波や痛み、乾燥が、実際に起きている体もある。役割の上書きだけで、欲がしぼむ体もあります。
仕事や介護、看病に追われて、体が欲を節約している
親の病院の送り迎えが終わったと思ったら、今度は子どもの熱。自分のための時間がゼロの週、ありませんか?
同じ部署に、50代でも食欲も性欲も旺盛な人と、30代でどちらも薄い人がいる。何が違うのでしょう。病気の有無だけで比べると、勤務時間や介護、看病の夜が、勘定から抜け落ちる。
下がらない熱を3年見守ってきた体なら、欲を控えめにしていても何の不思議もない。家計が苦しい月に真っ先に削られるのは、楽しみの出費ですよね。体の中でも、似たやりくりが行われていそう。
生理のリズムや冷え、甲状腺など、体の不調とつながっている
生理が遅れがち、手足がいつも冷たい、頭痛薬が手放せない。小さな不調が、次々に顔を出していない?
30代後半は、生理不順や冷え、頭痛、肌の荒れが先に気になりやすい年代。その延長で、欲まで下がっていく人がいます。なのに、女性だから、年齢だからで片づけてしまいがち。栄養や睡眠を整えて波が戻った人がいる一方、戻らずに心療内科の扉を叩いた人も。
甲状腺をはじめ、体の病気がからんでいる例もあります。痛みの記憶が、欲より先に体を身がまえさせることも。痛むときは、我慢して応じなくていい。サプリひとつで片をつけると、隠れた心の不調に気づくのが遅れがち。
【体験談】欲の消えた3人の話
診断名をもらえた人も、もらえずに暮らす人も、欲の消え方はばらばら。3人の物語に、最終ページはまだ来ていない。
気合いで戻そうとして、心療内科へ向かったかえでさん
34歳のかえでさんの性欲は、もともと多いくらいでした。それが突然、消えてしまう。
パートナーとの夜は、気合いで乗り切るもの。そう信じていたぶん、戻らない欲は、自分の意志が負けた証拠に見えました。
(もっと気合いを入れれば、きっと戻るはず)
困り果てた末に向かったのが、心療内科でした。女性の性欲は、30代でピークを迎える。そんな話を耳にして、頭の中はますますこんがらがります。
(ピークの年に、どうして私だけ…?)
かえでさんが受けた説明は、自律神経の乱れとうつ。あくまで、彼女一人に出た結果です。
名前を得た夜、肩の荷が少しだけ下りました。気合いの量とは関係がなかった。そう知れたから。
ただ、楽になったことと、欲が戻ることは別の話。名前は、散らかった机に貼る付箋に近いもの。どこから手をつけるかは見えても、机の上はまだ雑然としたままです。
欲も食欲も細り、人として動けているか揺れる31歳
あれほどあった欲が、今は本当にない。31歳で薬を飲んでいる人の言葉です。薬の影響で、食欲まで細くなりました。食べる、眠る、求める。三つの欲が、そろって薄い。生理も、2か月に1回しか来ません。
(私の体、ちゃんと人として動いてるの…?)
胸をざわつかせるのは、欲の不在より、体が返事をしてくれない感じのほう。
薬が原因の候補に並ぶのは、珍しい話ではない。かといって、自分の判断だけで飲むのをやめると、別の不調が先にぶり返すことも。この人の答えも、まだ出ていない。
パートナーが男性に見えなくなった、産後の日々
子どもを産んだあと、相手を男性と感じられない時期が続いた人がいます。人としては、変わらず好きなのに。
自分自身に向ける、女としてのまなざしまで曇ってしまった。母である自分が女の顔をする、その気持ち悪さ。今の体つきも、好きになれない。
相手に男を感じないこの感覚は、検査の数値には表れません。気のせいと流すうちに、ハグさえ消えていく家も。この家の話に、まだ結末はない。数値に映らなくても、その感覚は本物です。
これからどうする?病院へ行くタイミングと、欲のない時期の過ごし方
目指すのは、欲の早い回復じゃない。自分に優しい窓口を選び、今の体に合う暮らし方を探すこと。
まずは、今の体に小さな言葉をかける
欲の消えた夜に自分へかける言葉は、小さなもので足ります。体の歩みが、今は少しゆっくりなだけ、と。
冬眠中のクマを見て、枯れたと言う人はいないはず。じっとしている間も、体の中では命をつなぐ作業が続いている。
(はぁ…正直、触れられずに済む夜のほうがほっとする)
そんな本音も、ふたをしなくて平気。体が休みを求めているしるしかも。
新しい下着で気分を上げようとしても、ときめいたのは袋を開けた一瞬だけ(笑)
その空回りまで、責めの種にしないで。
病院を頼るサインと、何でも病気にしない線引き
30代で欲が消えるのを、よくある話で流さないで。体の異常を疑って、病院へ。そう真剣に言う人もいる。
その芯は、見落としてほしくないサインがあるという親切。急に消えた、痛みがある、月経が乱れた、疲れが抜けない、沈んだ気分が続く。どれかに引っかかるなら、受診をためらわなくていい!
一方で、30代の空白をまるごと病気でくくると、役割や働きすぎの重さがかすみます。相手は治るのを待つ人になり、待たれる側は、治るまで女性じゃない気がしてくる。その感覚が、欲をいっそう遠くへ押しやることも。
病院の順番に並ぶ前に、数えてみる家も。眠れているか、食べているか、一人の時間が週に何分あるか。数を整えても戻らない家はある。それでも、体の土台を知る手がかりに。
今日からできる、自分をいたわる小さな工夫
薬を続けているなら、誰から何を出されているか、一枚のメモにまとめてみる。欲や眠りの変化も添えて、診察で見せれば十分。夜がうまくいくかどうかの話は、いったん脇へ置いて。
パートナーに伝えるときは、治ったら再開、という約束にしないこと。治療の途中の体は、塗ったばかりのマニキュアに似ています。乾ききる前にさわられると、よれて一からやり直し。今は回復の途中と伝え、待ってもらえるゆとりを残して。
触れ合いは、ゼロか全部かの話じゃない。指先を重ねるだけ、背中をさするだけ。今の体が許せる形は、自分で決めてかまわない。
欲がない夜に応じるか断るか、選ぶ権利はあなたにあります。断ったことで、翌朝冷たくされる筋合いもない。
枯れた、と大きな字で刷った宣伝や、高額な処置の案内。目に入っても、その場で申しこむのは待って。まず血液検査、婦人科、心の窓口に並ぶ人もいる。結局、不安に効くのは強い言葉より順番です。
自分に厳しい目を、長所として活かす
責めがちな真面目さは、裏から見れば体の見張り番。
| 短所に見えるところ | 裏返すと | 活かせる場面 |
|---|---|---|
| すぐに病気かもと調べてしまう | 体の変化を放っておかない | 受診の合図を早めに拾える |
| 気合いで何とかしようとしてきた | 粘り強く向き合える | 眠りや食事の立て直しを続けられる |
| 相手に申し訳なくて黙りこむ | 相手を大切にしている | 今の状態を責めない言葉で伝えられる |
30代女性の性欲がなくなったときの、病気にまつわるよくある質問
Q.検査で異常なしと言われたら、気のせいだったの?
いいえ、気のせいとは別の話です。結果が異常なしで、かえって自分を責め立てる人も。でも、つらさが幻だったことにはならない。友人のすすめで婦人科を訪ね、そこで初めてほかの窓口を知る人もいます。
Q.性欲がないのは、パートナーへの愛情が冷めたから?
気持ちが冷えたしるしとは限りません。欲の量と、相手を思う心は、別々の秤にのっているもの。治療の途中で体が閉じたのを愛情不足と読むと、原因と結果があべこべになります。
Q.病気が原因なら、治療すれば性欲は戻りますか?
治療で戻る人もいれば、戻らないまま触れ方を変えて暮らす人もいます。どちらも、治療の失敗とは違います。戻る日を約束するより、今の体でできる触れ合いを探すほうが、焦りは減るはず。

コメント